イギリス大学院留学

ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)での一年間の大学院留学生活に関することなどを綴ってます。

パリ同時多発テロの日にパリに着く その1

 

2か月の一時帰国を終え、出発日に英検の面接を受け、アテネでの4日間のハネムーンが甘く過ぎ、パリについたのは現地時間13日の午後5時ごろだった。

 

アテネ最終日に、空港に向かう途中のメトロで乗車しようと押し寄せる人々に囲まれ、身動きが取れなくなり、中には手をひっぱって奥に入れてくれようとしたおじさんもいて、ギリシャ人はあったかいなー

と、思っていたら。

 

私のまわりだけ以上に男がたかっていたらしく、変に思った彼に財布確認してみてと後で言われかばんの中をチェックしてみると、

 

本当にす・ら・れ・て・い・た(°Д°)

 

今年はなんなんだろうか。ロンドンでの路上詐欺にはじまり、家賃詐欺、ピックポケットで多額の損害を被る年。

その分身体的な危険を避けられていると信じたい・・・

クレジットカードが二枚入っていたので、それぞれのカード会社に急いで電話。

HSBCロンドンは名前と住所がマッチしないと言われ、何回か電話するも、オペレーターにつながるのに5分以上かかるからついに何もできずに、搭乗するときに以前携帯で口座情報の写メをとっていたことを思い出し、パリの空港でやっと手続きを済ませる。

 

イギリスのサービスは結構いいんだけど、何をするにも待たされるし、それ以外に代替策もないから顧客のパワーが弱い。

 

カードの盗難に逢ったのは初めてだったが、周りの経験から、お金は引き落とされてもカード会社からポーンって返ってくると聞いていたのでそこまで心配しなかった。

しかし、お金が実際に引き落とされているかどうはカード取り消しの手続き自体では教えてもらうことができず、後日自分で確認してから、被害に逢っていたらまた再度電話して専門の部署での手続きを済ませないといけないらしい。

 

ANAカードの方は電話が1秒でつながった上に、その場で損失の有無を教えてくれたので、天使のように思えた。

カード再発行するのに1080円かかるのは悔しいが、サービスがいいとやはりその分お金がかかっても納得いく。

お役所など政府機関は、自らの優位的な立場に酔い痺れているのか、はらわたが煮えくり返るようなサービスを提供するところもあるが、困っているときに優しく対応してくれる会社は心から感謝したくなる。

 

幸い、どちらのカードも使われていなく、盗んだ人も悪のレベルでいうとそこまで悪い人じゃなくて良かった・・・

 

 

パリについたのは夕方のラッシュ時だったので、RER(パリの電車)はかなり混み合い、家についたのは夜7時ごろだった。

このとき、実はあの襲撃の現場となったスタジアム、スタッド・ド・フランス(Stade de France)の横を通り過ぎており、事件を知った後とても複雑な気持ちになりました。

特にこのスタジアムがあるSanit-Denisというエリアに1週間ほど泊まっていたこともあり、少し思い入れがあった場所だけに本当に残念です。

 

ちなみに、この地区は黒人の移民が多く、駅前は恐らく多くの人がイメージするようなおフランスな感じではないですが、セーヌ川の支流が通っており、エッフェル塔も遠くに見える景色がとてもいい場所です。

市の中心に行くと、本当に危ないらしいが・・・

 

 

世界は狭いもので、心配してメッセージをくれたイギリス人の友人は、友達のお父さんがちょうどそこで試合を観戦してたそうで、いつ、誰にでも起こりうることだと改めて思わされました。

 

夜寝る直前に、アテネで再会した友人からのメッセで事件を知り、その時は150人ほどが人質にとられているとだけ聞いてそのまま寝たら、

朝起きたらFBやLINEで安否確認をしてくれた友人や家族からのメッセージで携帯が鳴りやまず、やっと事の重大さを理解する。

ブログで感謝の気持ちを述べてもなんなんだが、気にかけてくれる人がいるのは本当に有難い。

 

 

ここで、国際関係と開発の人類学をかじった外観者として、テロによって考えさせられたことについて少し述べさせていただきたい。

 

フランスの自由平等の精神、

移民への差別、

そしてSolidarity(連帯)は何を指し、その先に何があるのだろうか。

最後に、「忘れ去られた無垢な犠牲」に対しても追悼の念を示したい。

 

Liberté, égalité, fraternité

自由、平等、友愛はフランス共和国のモットーであり、19世紀末の第三共和政の時に公式に国の標語となる。

チャーリー・ヘブドの事件が起きてから、チャーリー・ヘブドも風刺画も好きじゃなかったが、言論の自由を弾圧するような行為は許せないというような人が多く、

黒の背景にJE SUIS CHARLIEの文字が書かれたプロフィール画像がFBを席巻したのはまだ記憶に新しい。

フランス人にとって、言論の自由が意味するものはきっとフランス人とは何かという問いの解に値するほど、アイデンティティの一部であり、誇りに思っていることだろう。

世の価値観からみて良いことでも悪いことでも、差別的なことでも、言いたいことを言える土壌自体がフランスを形成するものであり、言論の自由はフランスという国をフランスせしめている根本的な原理の一つである。

 

以前は、アジア的価値観からみて、チャーリー・ヘブドはやりすぎだしあまり同情できないと思っていた。

宗教という人々が最も大事に思っている不可侵領域、人々が尊敬しあいながら同じ社会で生きていくための最低限のラインを侵し、他人を傷つけているから反撃を食らってもしょうがないぐらいに思っていた。

 

フランス人の多くもチャーリーなんて読まないし、趣味の悪いジョークだと思っているらしい。

ただ、このなんでも言える風土が嫌いなら、フランスから出ていけばいい。

フランスのルールが守れないなら、他の国に行けばいいじゃない。

と、フランス社会と相いれない移民に対して、フランス人はそう思っている。

(もちろん一概には言えないですが、個人的に一番よく聞く意見について述べます)

 

パリについたばかりのころ、上司(以下ボス)とお昼を食べている時に、

ニカブやブルカの話になった。

ボスのお母さまが生まれた町は、今やアフガニスタンなどからの移民がたくさん来ており、街を歩く女性がみんなニカブをかぶっているので、

 

「人間が歩いているのか幽霊が歩いてるのか分からない。」

「ちゃんと顔を出して歩くのはフランス社会のルールだ。」

「宗教を実践したいならサウジアラビアに行けばいい。」

 

とおっしゃっていたので、自称リベラルな私にとって、最初どれも問題発言で、

レストランのオープンテラスの席に座っていたこともあり、内心かなりドキドキ。

正直彼女の率直さにものすごい衝撃を覚えた。

 

多文化共生と異文化理解を促進したい人からしたら、宗教は人々が敬意を示さなければならないものだし、国家のルールと同等に語れるものじゃないと思うのが普通ではないだろうか。

 

でも確かに、なんで宗教は国家よりも上層の概念になるのだろうか。

ナショナリストじゃなくても、国家をアイデンティティのよりどころにしていなくても、自分の国を悪く言われれば腹立たしい気持ちになる。

宗教と国の関係を再構築していくと、同じ土俵に並べられる要素も多々あるように思える。

パリに滞在する二か月半の間に、割と無条件に中道左派を語っていた自分自身に疑問を投げかけられるようになった。 

 

そしてこの、本当の意味での言論の自由は、イギリスと大きく違う点でもある。

イギリスでは、植民地主義への反省から、社会的にSensitiveなことや差別的なジョークがかなり疎まれ、ちゃんとした教育を受けた人はステレオタイプに捉えられる発言に対して、嫌な顔で反応するように教育されている、と言っても過言でないぐらい徹底している。

 

例えば、私が大好きな「Mind Your Language」というイギリスの70年代のコメディーは、夜間英語学校を舞台に、各国からの生徒が、イギリス人が持つ外国人に対するステレオタイプを体現するものだが、これが好きとイギリス人に言うとかなり驚かれる。

(ちなみに人種差別が問題になり、1年か2年で放送中止となったw)

 

 

フランスの話に戻るが、移民全員がいき場を選べて、好きでフランスに住んでいるわけでもないし、宗教の信条に沿った生き方をしたいけどフランスのライフスタイルも好きという人もいるだろう。

世界のどこかに行けば、自分の理想にカスタマイズされたような国に出会えるわけでもないので○○での暮らしを選べば○○を犠牲にしなければならないのは避けられない。

本来ならば、国と移民双方の努力でお互いが中間地点で妥協しなければならないだろうが、移民受け入れ側からしたら自分の生活や国が移民のために合わせている部分の方が大きいように感じるのかもしれない。

原理主義者の台頭はこの不満に不安を付け加える。 

 

 

現代のテロリズムの特異性は、従来のように要求をつきつけて、相手に条件をのませるようなものではもはやなくなってしまったところにある。 

9.11以降、貧困はテロの温床とされ、途上国の教育に投資するなど、貧困削減=テロの予防とみなされてきたが、なおも収集つかない拡大する恐怖はこの方程式を見直すきっかけになればいいと思う。

 

矛盾することを言うようだが、テログループ形成の裏の国際政治の力学はさておき、ヨーロッパでその増大する力の補給の根源となっているのは、差別といった社会的なところにある。

フランスという社会が大事に思っている価値観を移民に課することは個人的に正当だと思うが、残念ながら見た目による日常的な差別もある。 

 

ある友達が、テロリズムは「症状(Symptom)」だと言ったが、その通りだと思った。

 

 

 

唐突ですが、思った以上に長くなりすぎてしまったので、差別や連帯、忘れられた死については次回書きたいと思います←

 

 

追記:パリ同時多発テロから考えたこと その2 (フランスにおける差別に対する外観者の考察)を加えました。

記事を読まれる価値は、(異なる意見を知るのももちろん大事ですが)自分と同じ価値観を持つ者の共感の輪を広げ、同じ態度をもって社会に接する人を増やすことだと考えておりますので、ぜひ読んでくらはい。

 

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